がん生殖医療

がん生殖医療外来

今後、化学療法や放射線治療、手術療法を予定されている場合、薬剤の種類、投与期間、年齢にもよりますが、生殖毒性を持つ化学療法や放射線治療などにより、治療後における妊娠の可能性が低下、あるいは消失することが知られています。

これを予防するには、化学療法や放射線治療前に卵巣組織、あるいは体内で発育した未授精卵子を体外に取り出し、凍結保存をしておく方法があります。原疾患の回復後、婚姻された場合に、凍結保存された卵巣組織を融解、自家移植、あるいは未授精卵子を融解、顕微授精して子宮に胚移植することにより妊娠できる可能性があります。

男性の場合にも妊孕性温存目的に化学療法、放射線治療前に精子を凍結保存しておくことが可能です。

化学療法による卵巣毒性

高リスク 中リスク 低リスク リスク不明
アルキル化剤

Cyclpphospamide

Melphalan

Dacarbaine

Ifosfamide

Nitrosoureas

Busalfan

Procarbazine

抗がん性抗生物質 Doxorubicin

Actinomycin D

Mitomycin C

Bleomycin
プラチナ製剤 Cisplatin

Methotrexate

Fluorouracil

Carboplatin

Tegaful

Cytarebine

Gemcitabine

Hydroxycarbamide

植物由来 Etoposide Vincristine

Taxanes

Irinotecan

Vinorelbine

分子標的薬

Imatinib

Erlotinib

Gefitinib

Rituximab

Transtuzumab

Cetuximab

化学療法により早発閉経となるリスク

高リスク(>80%) 中リスク(20~80%) 低リスク(<20%)

CMF/CEF/CAF療法6周期

(40歳以上)

CMF/CEF/CAF療法6周期

(30~39歳)

AC療法4周期

(40歳以上)

CMF/CEF/CAF療法6周期

(30歳未満)

AC療法4周期

(40歳以上)

CHOP療法4~6周期

ABVD療法

がん生殖医療外来の受診予約、お問い合わせについて

月、火、水、金曜日15時00分~16時00分に、木曜日14時00分~16時00分に婦人科外来まで電話連絡をお願いします(直通電話:011-231-2319)。

原疾患の治療開始まで時間が少ないことが多いので、早い段階でのご連絡をおすすめします。可能な限り早急に対応させていただきます

受診時には、原疾患担当医に原疾患の状態、予後など、妊孕性温存療法を行う事が原疾患治療に影響を及ぼさないと判断されるものであることを記載していただいた紹介状を持参していただくことが必要です。

卵巣組織、および未授精卵子の凍結保存に関する診察料は全て自費診療となりますが、現在、小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法促進事業が行われており、年齢などの条件を満たす場合には医療費助成の対象となりますので、詳細についてはお問い合わせください。なお、がん生殖医療外来は自費診療で1万円(税別)の費用がかかります。

紹介状記載内容

  • 疾患名
  • 進行期
  • 組織型
  • 予後(生命予後、再発リスク)
  • 現在までの治療経過
  • 予定される治療
  • 治療開始時期
  • 治療最大遅延許容期間
  • など

日本がん・生殖医療学会の情報提供用紙を同封いただいてもかまいません。

医学的適応による未受精卵子の採取・凍結・保存

治療を始めるに当たり、採卵・胚移植を行うことが原疾患の状態、予後など治療に影響を及ぼさないと判断した原疾患の治療医からの文書による許可が必要です。

卵子採取・凍結保存

経膣超音波ガイドを用い、成熟卵胞に膣壁から注射針を穿刺し、未授精卵子を吸引し、-196℃の液体窒素中に保存します。

凍結保存した未授精卵子は、ほぼ半永久的に保存することが可能ですが、日本産科婦人科学会の会告に従い、保存期間は被実施者の生殖年齢を超えない期間に限定され、被実施者から破棄の意思が表明されるか、亡くなられた場合には破棄します。

顕微授精・胚移植

婚姻後に未授精卵子を融解、顕微授精を行い、胚移植します。詳しい方法は当院ホームページの体外受精・胚移植の項を参照してください。

妊娠率

令和元年に日本では458101周期の生殖補助医療(新鮮胚移植41831周期、凍結胚移植211597周期、未受精凍結融解卵による移植161周期)が行われ、83415人が出生しています。新鮮胚移植、凍結胚移植、未受精凍結融解卵、各治療法による移植あたり妊娠率は21.0%、35.4%、18.0%、妊娠あたり流産率は24.9%、25.4%、24.1%、移植あたり生児獲得率は14.9%、22.8%、12.4%です。

(日本産科婦人科学会 倫理委員会令和2年度登録・調査小委員会報告より)。

費用

未授精卵子の凍結保存に関する診察料、検査費用、薬剤費、治療費は全て自費診療となります。また、その後の顕微授精費、凍結胚移植費用も全て自費診療となります。詳細についてはお問い合わせください。

安全性

卵胞は基底膜で隔てられているため腫瘍細胞が浸潤しにくい性質をもつことや、未受精卵子凍結保存法では最終的に卵子のみを利用することから腫瘍細胞混入のリスクはきわめて低いと思われます。

未授精卵子凍結について、2012年にアメリカ生殖医学会は凍結融解卵子由来で生まれた児に染色体異常、先天異常、および発育障害のリスクが増大することはないと結論していますが、原疾患を有する患者さんからの卵子採取、胚移植、ならびに児の予後に関しては十分な知見が得られておらず、長期予後など現在も追跡調査が行なわれています。

医学的適応による卵巣組織の採取・凍結・保存

治療をはじめるにあたり、卵巣組織採取、卵巣組織移植を行うことが原疾患の状態、予後などを治療に影響を及ぼさないと判断した原疾患の治療医からの文書による許可が必要です。

卵巣組織採取・卵巣組織凍結保存

腹腔鏡手術で左右2つある卵巣の片方を摘出します。

卵巣組織は凍結できるように1cm角に細切すると1つの卵巣から約10片の凍結用組織が採取できます。摘出した卵巣は組織の一部を用いて、病理検査で原疾患の転移の有無について調べます。

摘出した卵巣ともう1つの体内に温存した卵巣から直接未成熟卵子を採卵する場合もあります。採取した卵巣組織や未成熟卵子は、-196℃の液体窒素中に保存されます。

凍結保存した卵巣組織は、ほぼ半永久的に保存することが可能ですが、日本産婦人科学会の会告に従い、保存期間は被実施者の生殖年齢を超えない期間に限定され、被実施者から破棄の意思が表明されるか、亡くなられた場合には破棄します。

卵巣組織移植

再度腹腔鏡手術を行い、残存している卵巣に凍結してある卵巣を融解、移植し、卵巣機能を回復できる可能性があります。

卵巣機能は1回の移植で約2年間保持可能といわれていますが、回復しないこともあります。移植が不成功の場合や卵巣機能が低下した場合には、再度移植可能です。

妊娠率

妊娠率は卵巣組織移植例が少なく、十分に検証されていませんが、2017年の時点で卵巣組織凍結・融解移植後に130例以上の生児獲得例が報告されています。

(Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine 2019より)

費用

卵巣組織の採取・凍結保存に関する診察料、検査費用、薬剤費、治療費は全て自費診療となります。詳細についてはお問い合わせください。

安全性

卵巣組織凍結・融解移植の歴史は浅く、出産例が少ないため出生児の長期予後に関しては十分に検証できていないのが現状です。

また、凍結卵巣を移植する際には卵巣組織中の微小残存がん病巣(MRD:Minimal residual disease)が問題となることから、適応疾患をより慎重に選択すべきと考えられます。卵巣組織に微小ながん細胞が転移していた場合、卵巣組織を移植する際に悪性腫瘍を体内に再移入させてしまう危険性があります。