不育症診療

不育症とは?

妊娠はするけれども、2回以上の流産(日本では生化学的妊娠は含まないのですが、ヨーロッパでは含みます)・死産を繰り返して結果的に子供を持てない場合、不育症といいます。

妊娠10週以降の、染色体異常や形態異常のない流・死産や、重症の妊娠高血圧症候群による子宮内胎児発育不全症例は、1回でもあれば、不育症に準じて抗リン脂質抗体や血栓性素因スクリーニングを行っても良いと考えられています。

日本では、毎年3.1万人が不育症(うち習慣流産6,600人)と診断されています。いろんな報告がありますが、頻度は約1~6%のカップルが不育症とされています。

不育症の原因とその検査および治療について

抗リン脂質抗体症候群

病態

抗リン脂質抗体は、不育症の方の5~20%にみられ、この抗体により全身の血液が固まりやすくなり、血栓・塞栓症を引き起こすことがあります。特に血液の流れの遅い胎盤のまわりには血栓が生じやすく、胎盤梗塞により流産や死産が起こるとされています。

検査

ループスアンチコアグランド、抗カルジオリピン抗体(IgG抗体、IgM抗体(保険外))、抗カルジオリピンβ2GPI抗体を採血測定します。陽性の場合は12週以上の間隔をあけて再検査します。

治療

低用量アスピリン療法、ヘパリン療法

血栓性素因

病態

プロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症、第Ⅻ因子欠乏症などの一部では、血栓症などにより、流産・死産を繰り返すことがあります。また、流産・死産とならなくても、胎児の発育異常や胎盤の異常を来すことがあります。

検査

フォスファチジルエタノールアミン抗体、抗プロトロンビン抗体、トロンボモジュリン、プロテインC、プロテインS、凝固第Ⅻ因子を採血測定します。

治療

低用量アスピリン療法、ヘパリン療法

子宮の形態異常

病態

胎児期のミュラー管の分化異常により、種々の子宮形態異常が生じます。子宮形態異常の頻度は、一般女性では5.5%、不妊症の女性で8.0%、流産既往のある女性で13.3%と報告されていて、流産の既往がある方に高率にみられることから、不育症の一因を担っていると考えられています。

治療

不育症との関連が強い中隔子宮に対して子宮鏡下中隔切除術を実施しています(当院は、北海道ではもっとも実績のある病院の一つです)。

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逸見博文 第2回日本子宮鏡下手術研究会で発表(2018年)

子宮頚管無力症

病態

子宮収縮や疼痛を伴わずに、妊娠中期以降に子宮頚管が開大し、後期流産や早産になってしまう状態です。100~2000妊娠に1回と報告されています。妊娠前の診断は現時点では困難ですが、子宮頚管の手術(円錐切除術など)の既往、子宮奇形、妊娠初期あるいは中期の自然・人口流産の既往は、危険因子として考えられています。

治療

子宮頚管縫縮術

同種免疫異常

病態

妊娠を維持するために必要な免疫システムがうまく働かないために、胎児を異種抗原と認識し攻撃するため、妊娠の継続が難しくなることがあると考えられています。

検査

女性のヘルパーT細胞のバランス(Th1/Th2)、ナチュラルキラー細胞活性を採血測定します。

治療

ビタミンDやイントラリポス(脂肪の栄養剤)、タクロリムス(免疫抑制剤)が考慮されています。

染色体異常

病態

親の染色体異常(自身には影響を及ぼさないもので、均衡型構造異常保因者と言われています)が胎児に影響を及ぼし、習慣流産の原因になっている場合があります。

検査

流産組織の染色体検査、夫婦の染色体検査、対応策の一つに着床前診断があります(当院は、日本産科婦人科学会認定の受精卵着床前診断実施施設です)

黄体機能不全

病態

子宮内膜の着床が障害されて、初期の妊娠が妨げられます。また、黄体ホルモンには子宮収縮抑制効果があり、妊娠の継続にも重要な役割を果たしています。

検査

卵胞ホルモン(E2)、黄体ホルモン(P4)を高温相7日目ごろに採血測定します。

治療

ビタミンC、ビタミンE、黄体ホルモン剤、hCG製剤、クロミッド療法、ゴナドトロピン療法

その他の内分泌・代謝異常

高プロラクチン血症、甲状腺機能異常、インスリン抵抗性、多嚢胞性卵巣症候群などが不育症の原因となっていることがあるので、これらの異常が見られた場合は、それぞれ原因に合わせた治療を行います。

また、最近3割程度の不育症の方は慢性子宮膜炎(症状のない炎症)を合併していると報告されています。子宮鏡検査や子宮内フローラ検査で原因菌を特定し、それに合う抗生物質で治療する新しい試みもされています。

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出典:http://fuiku.jp/fuiku/risk.html

不育症検査の費用

検査項目 保険点数 価格(税別)
ループスアンチコアグラント 273 2,730円
第Ⅻ因子 223 2,230円
プロテインS活性 163 1,630円
プロテインC活性 234 2,340円
抗カルジオリピン抗体(IgG) 226 2,260円
抗カルジオリピンβ2GP1 223 2,230円
抗PE-IgG抗体 未保険点数 2,400円
抗PE-IgM抗体 未保険点数 2,900円
抗プロトロンビン抗体 未保険点数 4,900円
NK細胞活性 未保険点数 2,400円
夫婦染色体検査 未保険点数 19,500円/人
流産絨毛染色体検査 2553点+397点 29,500円
Th1/Th2 未保険点数 5,000円
ビタミンD 未保険点数 2,800円
亜鉛 未保険点数 1,580円

札幌市では、平成29年6月から不育症検査の費用の一部を助成しています。