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放射線被ばく(医療被ばく)について
放射線部は正確な診断と適切な治療を行うために、病気や怪我を早期に発見し、病変の状態などの様々な情報を画像で提供しています。色々な種類の検査がありますが、放射線部で行っている検査のほとんどが放射線を用いているため、有益な画像を得る代わりに、ある程度の被ばくをしています。ここでは、医療で使用される放射線防護の考え方と、医療被ばくについて説明します。
当院での放射線を用いた検査・治療の種類
当院では以下の検査・治療に放射線を用いています。
- 一般撮影検査
- 骨密度測定検査
- ポータブルX線撮影検査
- CT検査
- 術中Cアーム
- マンモグラフィ検査
- X線TV検査
- 血管造影検査
- 放射線治療
一方、MRI検査や超音波検査は放射線を用いずに検査を行っています。
放射線防護の3原則について
国際放射線防護委員会(ICRP : International Commission on Radiological Protection)が提言している放射線防護の3原則に則って、放射線の安全管理を行い、放射線を利用した検査を行うかどうかを決定しています。
正当化の原則
放射線検査によるメリット(便益・ベネフィット)が放射線のリスクよりも上回ると判断された場合に限り、放射線の使用が認められる、という原則です。
防護の最適化の原則
経済的及び社会的な要因を考慮し、合理的に達成できる限り、被ばくする人数、被ばくする人たちの線量(被ばくの量)を低く保たれるべきである、という原則です。これはALARA(As Low As Reasonably Achievable)の原則と呼ばれ、患者さんの検査や体格等の様々な要因に合わせて被ばくを減らしつつ、正しく診断できるレベルの画像を提出することを意味しています。
線量限度の適用の原則
被ばくは、検査を受ける患者さんだけではなく、医療スタッフも被ばくをすることがあります。被ばくの種類は以下のように分けられ、それぞれ線量限度が定めるられています。
職業人被ばく
放射線業務を行う人の被ばく。病院では医療スタッフの被ばくのことを指します。
被ばく量が、1年間で50mSv(50ミリシーベルト)かつ5年間で100mSv(100ミリシーベルト)を超えないように定められています。
医療被ばく
患者さんの被ばくのことを指します。
医療被ばくにおいては線量限度は定められていません。線量限度を定めると必要な検査や治療を受けることができないケースが生じてしまい、便益を損なうおそれがあるためです。ですので、医療被ばくは、病院側が正当化の原則と防護の最適化を適切に行うことが重要です。
斗南病院における医療被ばく低減の取り組み
上記のように病院側がICRPの3原則に則って被ばくを低減させることが重要です。そこで当院では医療放射線安全管理委員会を発足させ、放射線検査を安全に行うための指針を作成し、被ばく線量を適切に管理しています。
医療被ばく研究情報ネットワーク(J-RIME)と日本診断参考レベル(JAPAN DRL2020)の指標を用いて、院内で使用する放射線量を検討し、最適化しています。
その他、放射線技師が放射線を使用する装置の撮像条件を調整して、画質を担保しつつ、被ばくをできる限り減らしています。
放射線による体への影響
放射線は人の健康に影響を及ぼすことがあります。その影響は「確定的影響」と「確率的影響」に分けられます。ここでは、イメージのしやすい「確定的影響」について解説します。
確定的影響とは、全身や体の一部に被ばくしたときに、皮膚のやけど・紅斑・脱毛・出血、白血球の減少(造血機能の低下)、白内障などの影響が現れることをいいます。仮に、同じ部位に同じ量を被ばくした人たちのうち、1%の人にこれらの症状が起きたときの放射線量を「しきい値」(発症に必要な最小の放射線量)と言います。臓器毎に「しきい値」が定められており、しきい値よりも被ばく線量が多くなるほど症状が大きく出ることが知られています。
臓器別の確定的影響のしきい値
精巣 | 一時的な不妊 | 0.15Gy(グレイ) |
---|---|---|
永久的な不妊 | 3.5~6.0Gy | |
卵巣 | 永久的な不妊 | 2.5~6.0Gy |
骨髄 | 造血機能低下 | 0.5Gy |
皮膚 | 紅斑 | 2.0Gy |
一時的な脱毛 | 4.0Gy | |
壊死 | 25.0Gy | |
水晶体 | 混濁 | 0.5~2.0Gy |
白内障 | 5.0Gy |
放射線検査の被ばく量
放射線検査の中でも被ばく量の多いCT検査で0.01~0.1Gyであり、一般撮影検査ではその数十分の1の被ばく量です。斗南病院では、CT検査時にはできる限り撮影範囲を最小にし、しきい値の低い精巣や水晶体の被ばくを減らしています。
ほとんどの放射線検査において、確定的影響がすぐに出るような放射線量は使用していません。しかし、血管造影検査や放射線治療では、皮膚の紅斑や一時的な脱毛が出る場合があります。そのため、血管造影検査や放射線治療においても、放射線が照射される範囲を可能な限り狭くする工夫をしています。