肥満治療

教えて!最新の肥満治療

肥満は美容上の問題だけではなく、さまざまな病気を引き起こし、生命予後にも重大な影響をおよぼします。特に「肥満症」と診断された場合は適切な治療が必要になります。今回は、当院で行っている最新の肥満治療についてご紹介します。

肥満と肥満症の違い

「肥満」は脂肪組織が過剰に蓄積された状態をさす言葉で、BMI<Body mass index、体重(kg)を身長(m)で2回割った指数>が25kg/m2以上で判定されます。

一方「肥満症」とは、肥満を原因として起こる、または肥満に関連する健康障害を合併している状態をいいます。「肥満症」の英語訳は「Obesity disease」であり、"医学的に減量を必要とする状態"を意味します。

himan_img_01.png

BMI(kg/m2) 判定 Who基準
<18.5 低体重 underweight
18.5≦~<25 普通体重 Normal range
25≦~<30 肥満1度 Pre-obese
30≦~<35 肥満2度 Obese-class Ⅰ
35≦~<40 肥満3度 Obese-class Ⅱ
40≦ 肥満4度 obese-class Ⅲ

※BMI 22kg/m2という数値が男女共に統計的に最も病気になりにくい数値という意味で標準体重とされています。

チームで行う肥満治療

肥満治療の目的は、肥満によって引き起こされるさまざまな健康障害のリスクを体重を減らすことによって軽減させたり、健康障害の発症を未然に抑えることにあります。単に体重を減らしたり、スタイル維持が肥満治療の目的ではありません。

当院では、内科医(糖尿病専門医)、外科医(消化器外科専門医)、麻酔科医のほか、看護師(糖尿病療養指導士、手術室看護師)、臨床心理士、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、臨床心理士、メディカルソーシャルワーカーなどが、生活面、精神面、食生活などそれぞれ専門的立場から、多角的に患者さんをサポートしています。

以下にあてはまる方は、ぜひ「肥満外来」にご相談ください。

肥満手術の保険適応を考慮して、当院の肥満外来での治療対象を当面以下のように限定させて頂きます。

    • BMI 35kg/m2(肥満3度)以上に該当する高度肥満症の方

以下の健康障害のうち1つ以上を合併する方

  • 高血圧症
  • 脂質異常症
  • 糖尿病
  • 睡眠時無呼吸症候群
肥満外来のご案内

肥満外来の担当医は、糖尿病・内分泌内科科長の木島弘道医師です。

外来開設日は2022年4月以降、毎週水曜日・午後に限らせて頂いております。

なお、肥満外科手術に関することは、毎週月曜日午前あるいは木曜午後の外科外来、川原田陽医師までお問い合わせ下さい。

肥満治療の実際

肥満治療の一般的な流れをご紹介します。

内科的治療

治療内容は、投薬、栄養指導や運動療法、カウンセリングなどです。

本邦で肥満症治療薬として認可されている薬剤として、サノレックス錠(0.5mg)<一般名マジンドール>があります。適応は、「高度肥満症の食事療法の補助」、ならびに「高度肥満症の運動療法の補助」であり、投薬間隔は2週間毎、そして投薬期間も3カ月間に限られます。最大限の効果を得るためには栄養指導や運動療法を並行して行うことが不可欠ですので、初診時から安易に処方するようなことは避けています。また、糖尿病を合併している方には、より減量効果の高い薬物療法を選択できる可能性があります。外来での内科的治療で効果が現れた場合は、引き続きフォローアップしていきます。

外科的治療

6ヶ月以上の内科的治療でも効果が上がらない場合は、肥満手術の対象になります。腹腔鏡による内視鏡外科手術はからだにやさしい手術ですが、正常な胃を切除する手術ですので、メリット、デメリットについて術前に丁寧にご説明します。

フォローアップ

肥満手術をしたからといって、リバウンドしない訳ではありません。内科的治療や手術を契機として、ご自身で生活習慣を変えていくことが重要です。多職種が関わりながら、継続してフォローアップしますのでご安心ください。

肥満外来担当者のコメント

糖尿病・内分泌内科 木島弘道(糖尿病専門医)

日本人は、欧米人にくらべて過剰な栄養を摂取すると皮下脂肪よりも内臓脂肪がつきやすかったり、あるいは脂肪肝や筋肉が霜降りになりやすいといった体質のせいで、欧米人と同じ体重でも糖尿病を発症しやすい民族と言われています。肥満はあらゆる疾患の原因、または増悪因子ですので、体重が15kg増えるごとに早期死亡のリスクは30%増加するといわれています。しかも、高度肥満症になるとなかなか自らの意思で減量を達成するのは困難です。我々の肥満外来では、多職種のスタッフが関わることで包括的な肥満治療に取り組んでおります。さらに十分な効果が得られない場合に、当院では肥満手術という切り札を選択することも可能です。肥満合併糖尿病の患者さんにおいて肥満手術の効果は劇的であり、一例を挙げるとスリーブ状胃切除術を行った症例では糖尿病治療薬は93.1%で中止、インスリンは80%で中止可能であったとのデータが本邦より報告されています。

外科治療:肥満手術について

外科 川原田陽(消化器外科専門医)

肥満症に対する手術としてはいくつかの術式がありますが、胃を小さくするなどして食事摂取量を減らす術式と、さらにバイパスを加えて食事摂取量と消化吸収能を減らす手術があります。

肥満外科手術のうち、国内では2014年4月に腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が保険適用となりました。これらの手術を導入するにあたって術者基準、施設基準が設けられていますが、当科ではこれらの基準を満たした上で手術を導入しています。また、導入に際しては、外科医師だけではなく、内科医、麻酔科医、看護師、臨床工学士、管理栄養士、理学療法士、薬剤師、臨床心理士などがチームとなって研修を積んでおり、安全な導入のために万全の体制を整えています。

腹腔鏡下スリーブ状胃切除術は胃を細くして(スリーブ:袖)食事摂取量を減らす手術です。

手術は全身麻酔下に、腹腔鏡を用いて手術を行います。お腹に5~15mmの穴(ポート創)を4~5ケ所あけ、炭酸ガスでお腹を膨らませます。それから、腹腔鏡というカメラをお腹の中に挿入して、テレビモニターを見ながら手術を行います。胃をバナナ1本くらいの大きさになるように、胃の外側を特殊な器械を使用して切り取ります。切り取った胃は、お腹にあけた穴の一つを3cm程度に広げて摘出します。1週間から10日程度の入院期間で行っています。